
カレー湯掻くこと四、五度ののち
未知の喉ごしとコクが! ユーレカ!
[かれーゆがくことしごどののち
みちののどごしとこくが ゆーれか]
よく言われるように、回文の面白さとして、「思いがけない文が出現する」というのがあります。逆から読んでも同じという制約が、作者をもそっちのけにして勝手にものを言いだしてしまうのです。
これは、次のようにも言うことができるでしょう。ソシュールの用語で言えば、言葉には「シニフィアン」(意味するもの、文字や音)と「シニフィエ」(意味されるもの、意味内容)の2つの側面があります。ふつう言葉を用いるときは、シニフィエを人に伝えるためにシニフィアンが使われますが、回文をはじめとした言葉遊びではその関係がしばしば転倒して、シニフィアンのほうがむしろ作者の伝えたいことで、シニフィエはその後を追ってくる、ということになります。追ってきたそのシニフィエがときどき予想外の面白いものになっていて、回文っていいね!となるのです。上記の回文についても、別に私は、カレーを湯掻くと未知の味がするという大発見をこのブログで発信したいわけではありません。回文のルールや日本語の語法などシニフィアンにおける制約に従ったら、そのようなシニフィエがくっついてきました。
この現象には名前があったほうがよいので、仮に「シニフィアンとシニフィエの転倒」と呼んでみることにしました。自分ではけっこうしっくりきているのですが、なんだか当たり前のことを小難しく言っている感じだし、長々しいのもいまいちかも。(あと言語学に詳しい人からすると術語の使い方が厳密でないかもしれない。)よりよい用語を思いつかれたり、既存の用語があるようでしたらぜひ教えてください。
なお、「回文ではシニフィアンとシニフィエが完全に転倒している」とまで言ってしまうと言い過ぎで、回文の作成過程では文意のつじつまを合わせるために言葉を選んだりもします。シニフィアンとシニフィエが相互作用している、という認識の仕方が適当かもしれません。
また、シニフィエがシニフィアンに先行している回文も少なくありません。つまり、何か表現したい対象(時事ネタなど)が先にあって、それを回文の制約の中で表現してみた、というものです。それも面白いのですが、このブログでは、そういう回文はあまり出てこないはずです。シニフィアンの制約に身を委ねて、素敵なシニフィエに巡り合いたい。
勝手にくっついて出てきた不可思議なシニフィエを
返信削除(もはや回文としてではなく)どう捉えどう扱うか。
意味が無い派が大多数だとして意味が有る派はどうするか。
天啓や啓示、暗示と捉え人生の道標にするか。
出てきたものは無意識化の願望なのだとか何とか言ってみるか。
やはり回文と絡めて(脱却はせず)「回文占い」などと称し
「貴方のシニフィアンからは、こんなシニフィエが出ましたけど」
などと言ってみるか。
四行詩になりえるものを集めて「回文大予言」などと省し
という様な事を回文に添えて端書きに書いた覚えがあります。
どうもご無沙汰してます。
削除日本語の体系に密かに埋め込まれていた暗号だと考えるか……
まあ意味はないと思いますけど、たまに天啓じゃないかと思えてしまうようなシニフィエが出没するからこわい。
ご無沙汰しています。幽霊みたいな登場をしてすみません。(ゆーれーか!)
削除日本語で回文(などの何か)を作り続けていたら日本語(仕組み)自体に隠されていた秘密に行き着いた(なり片鱗をみた)、というのは面白いですね。
日本語に組み込まれている秘密ってなんでしょうね。
解いたら「これは日本語の秘密です」という意味になるかしら。
「能記」「所記」を使って「能所転倒」とか……わかりにくいですが。
返信削除回文創作をアルゴリズム的に言うと、
『「シニフィアン→シニフィエ」と「シニフィエ→シニフィアン」を繰り返して
文を伸ばしつつ「評価値」を最大化していく』
ということなのかなと思いました。まとまってませんが。
能記・所記は「記」の字がけっこう重要そうだから、「能記・所記転倒」としたくなりますね……けっきょく長い。
削除シニフィアンとシニフィエに与える評価値の重みが人それぞれ違っていて、いろいろな回文ができる、という見方ができますね。私はシニフィアンに若干寄りつつもバランスを大事にしたいと思っております。
回文については言わずもがなで素晴らしいのでふれるのを忘れてました。
返信削除ユーレカはいろいろ遊べそうですね。
カレー湯に入れ綺麗に!ユーレカ!
ありがとうございます。自分としても久々に満足のいった回文です。
削除「Eureka」は、カナ表記にバリエーションがやたらたくさんあるので、だいぶ楽しめます。「Eureka!」のシニフィエの威力を最大限に発揮しようとしたら、上記のになりましたとさ。