「寝とこ。多汗さあ。顔、違和だ。手、いよいよブヨブヨし、胃、痛いんさあ。顔違和だ、腿肉とかも悶々な違和だ。殊痛い、腿。子よ、横来い」
「お、お母さん!」
「もう、腰、体躯つらい。股、赤いな。発熱はないか。頭、いらつく、痛し。肛門さ、垢多い。ここよ横腿、痛いとこだわい。難問、腿か。特に腿だわい」
「お母さん、痛い? 医師呼ぶ?」
「呼ぶ、良い! 良い手だわい」
「お母さん、カタコトね!」
[ねとこ たかんさあ かおいわだ ていよいよぶよぶよし いいたいんさあ かおいわだ ももにくとかももんもんないわだ こといたいもも こよよここい おおかあさん もうこしたいくつらい またあかいな はつねつはないか あたまいらつく いたし こうもんさ あかおおい ここよよこもも いたいとこだわい なんもんももか とくにももだわい おかあさんいたい いしよぶ よぶよい よいてだわい おかあさんかたことね]
「いかにも回文っぽい文体」というのがありますよね。普通の文章とは明らかに何か違う、独特な雰囲気の文体。そういう文体を、このブログでは勝手に「回文体」と呼んでおります。
回文体を厳密に定義したりすることは、もとよりできないのですが、大雑把な特徴として、
- 一文が短い
- 体言止めが多い
- 終助詞(~よ、~さ、~か、等等)が多用される
- 格助詞(が、の、を、に、等等)がしばしば脱落する
- 接続詞、接続助詞も登場頻度が低い
回文を作っている人が狙って回文体にしているわけではもちろんなくて、上から読んでも下から読んでも、という制約が、自動的にこういう日本語世界を作り出しているわけで、面白いことだと思います。
私の好みは、回文体でない自然な言い回しの回文です。作るときも、回文体の圧力に抗して、なるべく自然なものを目指したいと思っています。が、自然な言い回しを追求しきれないときもあって、たとえば[005]などは、自然な言い回しにすることは気にせずに、回文体の圧力に流されるままに作ったパターンです。
回文体の圧力に抗するとも単に流されるとも違う第三のパターンとして、「圧力に流されながらも、回文体であることを読み手にあまり意識させない工夫をする」あるいは「回文体であることに必然性があるように工夫をする」という手もあります。こういう方向も奥が深いです。
この第三のパターンも含め、次回からしばらく、回文体の圧力に関するあれこれについて考えていきたいと思いますよ。
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