
[よ-う-しょ-で-び-く-つ-きゃ-きゃ-つ-く-び-で-しょ-う-よ]
前々回、回文の定義として
回文とは、文であって、その表記のひとつが「逆から辿ると元と同じ」という条件を満たすものである。(※)というのを提案しました。この定義(※)に従うと、日本語のいろいろな表記それぞれに対して、回文の種類が考えられることになります。そのことについて 前回 書きました。取り上げた回文の種類を表にすれば、次のとおりです。
表記 | 回文の種類 |
ひらがな表記 | (ふつうの)回文 |
半角カナ表記 | 五箱の小箱 |
漢字かな交じり表記 | 漢字かな交じり回文 |
ローマ字表記 | ローマ字回文 |
モールス符号表記 | モールス符号回文 |
点字表記 | 点字回文 |
今回は、この枠組みに一見収まらなそうに見える回文の種類をいくつか取り上げて、それらを包括的に扱える枠組みを提案します。
拍単位回文
たとえば「東京都」を回文と見なす場合があります。一拍ずつ発音すると、「と-う-きょ-う-と」のようになって、逆から読んでも同じでしょう、というわけです。こういう回文を「拍単位回文」と呼んでいます。
ところが「東京都」は、ひらがな表記では「とうきょうと」となって、逆に辿ると「とうょきうと」となり、元と同じになりません。「きょ」のところが、拍数では1拍なのに、文字だと2文字になっていて、拍と文字の数が食い違っているからです。上記のほかの表記法でもやっぱりうまくいきません。では、拍単位回文は回文とは見なせないのでしょうか。
私はぜひ拍単位回文を回文と見なしたかったので、いろいろ理屈を考えました。そして、次のように考えればよい、というところに落ち着きました。
その理屈とは、1文字が1拍に対応するような、新しい表記法を考えてしまえばよい(!)というものです。つまり、「きょ」というのをひと固まりの新しい文字と考えて、「とうきょうと」を「と」「う」「きょ」「う」「と」という5文字からなる表記だと思えば、この5文字を逆に辿ると「と-う-きょ-う-と」となり、元と同じなので、回文になっている、というわけです。一般的に書けば、次のような新しい表記法を考えることになります。
- まず文Xをひらがな表記します。
- そのひらがなの列を、拍を単位にして区切ります。
- 区切られたそれぞれの部分を「1文字」だと見なします。
「東京都」の場合は、
- まずひらがな表記して「とうきょうと」とします。
- そのひらがなの列を、拍を単位にして区切ると「と-う-きょ-う-と」となります(" - "のところが区切りの箇所)。
- 区切られたそれぞれの部分「と」「う」「きょ」「う」「と」をそれぞれ「1文字」だと見なします。
この表記法を、ここでは「拍単位ひらがな表記」と呼ぶことにしたいと思います。ひらがな表記に基づいて、拍を単位にして区切る表記だからです。この用語を使えば、
拍単位回文とは、「拍単位ひらがな表記」による回文だった、ということになります。
「……そんなん屁理屈じゃないか?」と言われるかもしれませんが、実際まあ屁理屈なのです。でも、屁理屈だろうが何だろうが、とにかく理屈が通って、「東京都」が上記の回文の定義(※)のもとで回文だと見なせれば、自分はハッピーなのです。
しかも、さらにハッピーなことがあります。拍単位回文の他にも、一見すると回文のルールに則っていない回文の亜種を、同じ理屈で回文と見なせる!のです。その例をいくつか挙げます。
2文字回文
ひらがな2文字を単位にする「2文字回文」というのがあります。twitterで一時盛り上がっていたようで、たたみさんのサイト に当時の作例がまとめてあります。たとえば、たにけさんの
メル友ともめる(める-とも-とも-める)とか、とても面白いと思います。
この2文字回文というのは要するに、ひらがなで表記したものを、2文字を単位にして区切り直す表記、つまり「2文字単位ひらがな表記」による回文です。「メル友ともめる」は、2文字単位ひらがな表記だと「める」「とも」「とも」「める」という「4文字」で表記されることになり、その表記によって、上記定義(※)に照らして回文になる、という理屈になります。
当然、「3文字回文」とかも考えられます。3文字回文とは「3文字単位ひらがな表記」による回文、ということになります。作例としては ミレイさん の
ちょこっと泣けるほどとろける、ホットなチョコ。を挙げておきます。面白いですなあ。
(ちょこ-っとな-けるほ-どとろ-けるほ-っとな-ちょこ)
音節単位回文
母音を中心とする音のまとまりを「音節」と呼びますが、これに基づいて回文を考えることができます。たとえば「産婆さん」は、音節で分けると「さん-ば-さん」となり、音節を逆から辿ることによって回文になっています。
これは、ここまでの理屈を使うと、「音節単位ひらがな表記」による回文、ということになります。「産婆さん」をひらがなで表記して、それを音節で区切った「さん-ば-さん」を、「さん」「ば」「さん」という3文字による表記だと思うと、逆から辿ると元と同じになっている、というわけです。
ほかの作例としては、拙作ですが
世の中バッドエンドばっかなのよ。などがあります。
(よ-の-な-か-ばっ-ど-えん-ど-ばっ-か-な-の-よ)
単語回文
「単語回文」と呼ばれている回文があります。作例としてすぐ思い出すのは、モーリーさんによる
来週一杯、蝶とか蛾とか、超いっぱい来襲。です。これは、ここでの理屈だと「単語単位ひらがな表記」ということになります。つまり、ひらがな表記した「らいしゅういっぱいちょうとかがとかちょういっぱいらいしゅう」を、単語で区切ると「らいしゅう-いっぱい-ちょう-とか-が-とか-ちょう-いっぱい-らいしゅう」となり、これを「らいしゅう」「いっぱい」……「らいしゅう」という9文字からなる表記だと思うと、逆から辿ったとき元と同じになる、という理屈です。
拍単位ローマ字表記回文
ここまでで取り上げたのは、すべてベースがひらがな表記であるものばかりでしたが、もちろんこの理屈はひらがな表記に限るものではありません。たとえば、「拍単位ローマ字表記回文」というのが考えられます。
上に書いた、拍単位ひらがな表記による回文
世の中バッドエンドばっかなのよ。は、拍単位ローマ字表記では回文になりません。なぜか。この文をローマ字で書くと「yononakabaddoendobakkananoyo」となりますが、これを拍単位で区切ると「yo-no-na-ka-ba-d-do-e-n-do-ba-k-ka-na-no-yo」となるはずです。促音「っ」2つに対応しているローマ字が「d」と「k」になっており、食い違っていて、この表記だと回文になりません。
拍単位ローマ字表記でも回文になる拍単位回文としては、たとえば
ちょっと太っちょ。があります。「tyottohutottyo」を拍で分けると「tyo-t-to-hu-to-t-tyo」となり、たしかに回文です。
このように、「〇〇単位××表記」という表記法を考えることで、さまざまな回文の亜種をひとつの枠組みで捉えられるようになるのです。まとめると次の通り:
表記 | 回文の種類 |
拍単位ひらがな表記 | 拍単位回文 |
2文字単位ひらがな表記 | 2文字回文 |
音節単位ひらがな表記 | 音節単位回文 |
単語単位ひらがな表記 | 単語回文 |
拍単位ローマ字表記 | 拍単位ローマ字表記回文 |
「〇〇単位××表記」の「〇〇」「××」にいろんなものを入れることで、多様な回文が生まれるはずです。ぜひ考えてみてください!
次回はいわゆる「音ルール」について考えます。
このコメントは投稿者によって削除されました。
返信削除面白謎コメントだったのに消されてしまい残念(笑)
削除あのコメントは酔っ払っているときに書きまして、翌朝シラフになったときに消してしまいました。。。
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