「回文関係者に聞く」と称して私が話をしたい人と話をする企画、略して「回文関係者に聞く」の4回めです。今回は、大阪のオカン、みィさんです。途中から特別ゲストも登場しますよ。
みィ(み) 私は言葉遊びにパズル的な興味があったので、そっちから回文に入ったんです。
罅ワレ(罅) 言葉遊びを始めたきっかけは?
み 幼稚園・小学校低学年のころ、友達は多かったんですが、会話ができなかった。ちゃんとした会話ができないから、言葉遊びに行ったんです。それは私が悪いんじゃなくて、友達が悪いんです。友達というのが、土の下にいるんですよ。まあ言ったら会話はできない。哺乳類ならまだ行けるんですけど、丸めたらコロコロ行くのとか、アリとかミミズとかですからね。
罅 おお(笑)
み とくに、短い単語のアナグラムを喋っていました。意味はなくていいんです。5文字なら、順列で120通り全部、頭のなかで回すんです。ほんならわりと心地いい。それを喋ってもアリは笑わないしね。
罅 それをアリに?(笑)
み そんなおかしくないよね。
罅 だいぶおかしいです(笑)
み ぜんぜんおかしくないです。ふつうアナグラムは、意味のある言葉を見つけようとしますけど、私は意味がないのも全部羅列して数え上げていく。素数でも、数を2倍し続けるのでも、何かがずっと続いていくのが好きやった。そういう感じの言葉遊びから入ったんです。
罅 回文を知ったのはそのころ?
み 小学校の頃はたぶん知らなかった。でもアナグラムを順番に作っていると、逆さ読みが途中で出てくるでしょう。それは印象に残りますよね。「あ、今逆なった」っていう感じね。で、また変わっていくっていう。
罅 すごく面白いです。
み 中学・高校になるともうちょっと進化して、意味のあるものを作ってましたが、回文は知ってましたけどあんまり作らなかったんです。大学時代は普通の学生っぽくなって、バンド組んだり、プログラム組んだりしてました。そのときは言葉遊びは忘れてました。
罅 バンド! 何を演奏されていたんですか?
み シンセサイザーです。一般の人にはなかなか触ることができなかった楽器が、20万くらいしたんですけど、一般市民にも買えるようになった。画期的だったんです。シンセサイザーはパソコンで全部音を作れるんで、パソコンも使いだしました。パソコンも、それまで夢のようだったものが、5万くらいで売られるようになったんです。BASICとかから独学でやってました。卒業後はプログラマになりました。でも結婚して辞めて、子ども産んで。すごく普通の主婦やった。今もですけど、家から出ないで閉じこもってた。
そやけどね、SNSが40代半ばで流行りだしたんです。SNSって良い世界じゃないですか。喋らなくてもいい。だから私にぴったりなんです。でも、私には発信するネタがないんですよ、外に出ないから。そんなとき、言葉遊びをしてたのを思い出した。まず、ダジャレとかオヤジギャグとかを連発したら、みんなスルーするんです。こんな一生懸命考えてるのにね。なのに、それを回文にしたら、評価がガラッと変わる。
罅 わかります。
み わかるでしょう。同じなのにね。ダジャレのほうがむしろ苦労するし。回文なんて短いのはわりとできますよね。でもうわーっと評価が上がって、すごく気持ちよかった。その気持ちよさが続けられてる原動力やと思うんです。たとえばね、「貴殿は電話でんわ」ってダジャレ言うても誰もわからん。それを
でもちょっと半信半疑やったとこに、O太郎さんみたいなすごいひとと知り合って、ああやっぱり間違ってないって思った。
罅 O太郎さんとはSNSで?
み そう。Oちゃんの評価が上がったのはね、ご存じのとおり、罅さんに声をかけられたって話をSNSで読んで。(注:回文関係者に聞く(1)参照) ようわからんけど、Oちゃんすごいやんって、私の中では評価ダダ上がりですよ。罅さんのブログもそれで知ったんです。
み 罅さんの「来ても良い頃だろ、来いよモテ期!」は、すごい回文やと思って、読んだあと大阪弁で考えたんですよ。いい回文があったらパクりたいよね。たぶんこんなん作ったかなと。
罅 3つめとかけっこう好きですよ。改作で、作者が見つけていなかったよりよいバリエーションを、他人が発見する可能性も十分あると思います。ただ、見つけてもちょっと発表しにくい雰囲気はあるかもしれないですね。
み ですよね。私はしたいですけどね。でも元の作者からしたら「それ違うで」って思う。あと、大阪弁使うのもずるいんですよ。だって、すっごい作りやすいですよ。「あかんやん」とか「でんな」とか、語尾を大阪弁でやると、うまくまとまってしまうんです。だから、最初は調子に乗ってたくさん作ってたんですけど、逃げる感じになるからね、あんまりしないようにしようかなとは思ってます。
罅 ほかに注意されていることはありますか。
み 作るときは、ほぼ頭のなかで作るんです。だから、ワンセンテンスがいいんですよね。しかも、あんまり音読みの熟語を使わない、聞いてわかるようなやつ。頭のなかで作るとそうなりますね。過去に作ったのを見ていただこうかと思って、いちおう印刷して持ってきました。でも、好きなやつを選んでって言われても、とくにないんですよ。
罅 強いて言えば?
み この
罅 ああ、素晴らしい。
み でも、たぶん似たようなんが山ほどありますよね。
罅 ぼくは他では見たことないですよ。
み このレベルで、誰も作れんようなのを作りたいですね。ダックスさんがそのパターンですよね。このくらいの長さなのに、ぜったい被らない。そういうのはすごいと思う。
私、あんまり自分のは好きじゃないんです。自己肯定感があんまりないんです。ダジャレでバカにしたひとがすごいすごいって言ってくれるもんやから、たぶんやってるんです。
罅 ぼくは、いただいたリストのなかに好きなのがたくさんあります。
罅 いえいえ、大事にしますよ。
み 最近は、韻踏むやつを作りたいと思ってるんです。こういうのを作っていきたい。
罅 内容は面白いですよ。
み でも笑いに逃げるのもよくないですよね。ハゲとかオヤジとかね。大阪弁と一緒ですよね。
罅 笑いは好きじゃない?
み いや、好きだから、やめようって思うんです。それを封印して作らないとダメだなと思います。虫シリーズとかも作りかったんですけどね、難しいし、面白くないんです。自分の好きなのを「どや」みたいに言うのも変でしょう。恥ずかしい。虫とかハゲワードとか大阪弁とかを封印して、そんで韻踏め言われてもね、そんなん作られへんやん。誰も作れ言うてへんけどね。
罅 韻にこだわらなければ、理想的な回文がこのリストにはたくさんありますよ。「異世界対戦」とか気に入ってるでしょう。
ひざみろ(膝) みィさん、ここ1階やで!
み え、ここ1階やった? ごめん。えー、悪かった。(注:みィさんはこの店が地下にあると思い込んで連絡していたのでした)
膝 はじめまして、ひざでございます。
罅 はじめまして、罅ワレです。
我々は、ひざみろさんの到着を機に店を移動して、3人で話を続けることにしました。
膝 みィさんの回文作法で特徴的やと思うのが、文字より音寄りってとこなんです。
み ああ、もちろんです。音ですね。
膝 ぼくはどっちかというと文字寄り。たとえば「は」を、片方では「は」と読んで、もう片方では「わ」と読む緩和規則は、ぼくのなかでは比較的いいんちゃう、と。
み 私は気持ち悪くなる。好きじゃないんです。
罅 そうなんですか。
み 頭のなかで反対から読んだときに回文にならないんです。
膝 ぼくも回文を頭のなかで作るんですが、ぼくは逆に、「を」と「お」を同一視するのは緩和度合が高く感じる。罅ワレさんもたぶんそっちですよね。
罅 まったくそうです。音の違う「は」の同一視は、緩和規則と見なしてすらいないです。みィさんみたいに音で考えるひとは、「しゃ・しゅ・しょ」とかをどう考えているのか気になるんですが。
み そうなんですよね。使いたくないですけど、それが入ってる言葉は多いですよね、「蝶」とか。私らが子どものころ、「てぶくろじゅんさ(手袋巡査)を反対から読んでみ」って言って遊びましたけど、この遊びだと「じゅ」はそれでひとつなんです。そういう考え方だったと思うんです。
罅 ぼくも小さいころ、「とうきょうと」が回文だと思っていたので、そのころは音で考えていたのかもしれないです。
み いまはそんな回文の作り方をするひとはいませんよね。
膝 今まで分析してきた経験則では、文字寄りの人のほうが多いんですよ。いわゆる緩和規則と呼ばれているものを何でもOKとするひとは別として、みィさんのような音寄りのひとは少ない。音をベースにして回文組み立てる人は凄いなって思います。みィさんはどうやって作ってますか?
み ひざの回文の作り方のレベルを落としていったら私になる(笑)。ひざは、私の許容範囲だと思ってる文字数を何倍も超えてるからね。
膝 ぼく、記憶力はぜったい良いですよ。
み 私も数字覚える桁数はかなり行けるけどもね、しんどいんです。年いくと、頭のなかではできたつもりが、書いたらショック受ける。間違ってるんです。何回も頭のなかでリフレインして、音はできてるの。やのに、書いたら「えっ」て思うときはある。
膝 ぼくとみィさんだと、同じように頭で作るのでも、作り方が違うんじゃないかと思います。ぼくは頭で組むとき、もちろん実体はないんだけど、それでも文字で組んでると思うんです。イメージで言うなら、字が書かれたボールが頭のなかに浮かんでいて、それを逆から読んでるような感じ。
み ソロバンをそらでするひとみたいな。
膝 そうそう。みィさんはたぶん、頭のなかに字がないんですよね。
み そう、私は音で覚えて必死で言ってるから、限界がわりとある。
罅 ほかに音で作る人って誰がいるんでしょうか。
膝 音寄りのひとで、みィさんぐらい回文に慣れてるひと、誰かいるかなあ。
み 音寄りタイプの人はそもそも回文を作らないのかな。ダジャレとかに行くのか。
膝 そうかもわからないですね。
み 私も褒められるから無理に回文を作ってるけど、ほんとは回文じゃないのかもしれない。ほかで認められればそっちのほうがいいのに、誰も相手にしてくれないから、回文作ってるんですね。回文師としては失格です。インタビューになりません。
罅 いやいや(笑)
膝 失格も何も、回文に格なんてないですから。好きか嫌いかです。
膝 みィさんは対称性に関してこだわりがあるなとよく思います。
み それは虫でもそうです。昆虫でもミミズでも対称形なんです。でもあんまり対称に見えないでしょう。それで蝶が好きになったんです。蝶の翅の模様って適当についてると思うでしょう。でも不思議なぐらい対称なんです。蝶は模様が見えるから対称なのがわかりやすい。その対称性はものすごい好きなんです。
罅 そういうところで回文と蝶がつながっているんですね。
み 蝶も、内臓は対称じゃないんですよ。でも蝶は胴が細いでしょう。無視できるんですよ、内臓を。だから私、翅だけとりたいねん。翅だけにすると対称なんです。
膝 音寄りの考え方をしていてなおかつ対称性に美しさを感じるのであれば、回文がいちばんなんじゃないんですかね。みィさんは回文の「構造」に興味があるんやなと思います。みィさん、韻文好きでしょう。
み そうそう、そうなんです。
膝 みィさんの韻を踏む回文って、端から作ってるんですか?
み 端も何もない。候補をむちゃくちゃたくさん作ったうちのいくつかを組み合わせてるの。それは簡単なんやけど、できた内容がほんまに言葉遊びで終わってしまう。意味が通じないとね。
膝 意味が通じなくても別にいいんじゃないかなあ。ぼく、マザーグースの脚韻が好きなんですけど、マザーグースでもナンセンス文がたくさんあります。
み ダックスさんみたいなセンスがあると、意味ない言葉が活きてきますよね。でもそれは私にはできない。意味が通るのを作りたくて仕方ない。これからはちゃんとしたいって思ってるんです。できるだけ大阪弁を封印して、ハゲワードも封印して、ちゃんとした回文を作ろうかなと思ってる。
膝 でももうできてると思いますよ。「異世界対戦……」はどうなんですか。あれは今でもいいと思っている?
み ……ですね。
膝 ぼくはこれが好きなんですよ。
罅 そうなんですよ。まったく同感。
膝 あ、やっぱり。
み だからあんまり言いたくないんですよ。
膝 これもすごいなあ:
み そういう技巧は、狙ったようであんまり好きではない。恥ずかしい。ひとの作品なら許せるんですけどね。自分はええ年してほんま恥ずかしい、死んだあと笑われるんちゃうかと思ってしまう。若気の至りって言えないんですよ。それは苦しいです。
罅 じゃあ、みんな若いうちにやりたいことをやっておかないと。
み そう、いまのうちにね。
みィ(み) 私は言葉遊びにパズル的な興味があったので、そっちから回文に入ったんです。
罅ワレ(罅) 言葉遊びを始めたきっかけは?
み 幼稚園・小学校低学年のころ、友達は多かったんですが、会話ができなかった。ちゃんとした会話ができないから、言葉遊びに行ったんです。それは私が悪いんじゃなくて、友達が悪いんです。友達というのが、土の下にいるんですよ。まあ言ったら会話はできない。哺乳類ならまだ行けるんですけど、丸めたらコロコロ行くのとか、アリとかミミズとかですからね。
罅 おお(笑)
み とくに、短い単語のアナグラムを喋っていました。意味はなくていいんです。5文字なら、順列で120通り全部、頭のなかで回すんです。ほんならわりと心地いい。それを喋ってもアリは笑わないしね。
罅 それをアリに?(笑)
み そんなおかしくないよね。
罅 だいぶおかしいです(笑)
み ぜんぜんおかしくないです。ふつうアナグラムは、意味のある言葉を見つけようとしますけど、私は意味がないのも全部羅列して数え上げていく。素数でも、数を2倍し続けるのでも、何かがずっと続いていくのが好きやった。そういう感じの言葉遊びから入ったんです。
罅 回文を知ったのはそのころ?
み 小学校の頃はたぶん知らなかった。でもアナグラムを順番に作っていると、逆さ読みが途中で出てくるでしょう。それは印象に残りますよね。「あ、今逆なった」っていう感じね。で、また変わっていくっていう。
罅 すごく面白いです。
み 中学・高校になるともうちょっと進化して、意味のあるものを作ってましたが、回文は知ってましたけどあんまり作らなかったんです。大学時代は普通の学生っぽくなって、バンド組んだり、プログラム組んだりしてました。そのときは言葉遊びは忘れてました。
罅 バンド! 何を演奏されていたんですか?
み シンセサイザーです。一般の人にはなかなか触ることができなかった楽器が、20万くらいしたんですけど、一般市民にも買えるようになった。画期的だったんです。シンセサイザーはパソコンで全部音を作れるんで、パソコンも使いだしました。パソコンも、それまで夢のようだったものが、5万くらいで売られるようになったんです。BASICとかから独学でやってました。卒業後はプログラマになりました。でも結婚して辞めて、子ども産んで。すごく普通の主婦やった。今もですけど、家から出ないで閉じこもってた。
そやけどね、SNSが40代半ばで流行りだしたんです。SNSって良い世界じゃないですか。喋らなくてもいい。だから私にぴったりなんです。でも、私には発信するネタがないんですよ、外に出ないから。そんなとき、言葉遊びをしてたのを思い出した。まず、ダジャレとかオヤジギャグとかを連発したら、みんなスルーするんです。こんな一生懸命考えてるのにね。なのに、それを回文にしたら、評価がガラッと変わる。
罅 わかります。
み わかるでしょう。同じなのにね。ダジャレのほうがむしろ苦労するし。回文なんて短いのはわりとできますよね。でもうわーっと評価が上がって、すごく気持ちよかった。その気持ちよさが続けられてる原動力やと思うんです。たとえばね、「貴殿は電話でんわ」ってダジャレ言うても誰もわからん。それを
One day 鳴らない電話こっちにした途端、「天才やん」てなるんですよ。やんややんや、ですよ。そんなんおかしい。「布団がふっとんだ」こんなんも天才じゃないですか。ほんならこれをもとにこんなん作るの簡単でしょう。
断トツ布団がガンとふっとんだでも一般の人の評価はこっちのほうがすごいんです。だから、言葉遊びのなかでも「回文をしてるんや」って言ったら尊敬されるなと。
でもちょっと半信半疑やったとこに、O太郎さんみたいなすごいひとと知り合って、ああやっぱり間違ってないって思った。
罅 O太郎さんとはSNSで?
み そう。Oちゃんの評価が上がったのはね、ご存じのとおり、罅さんに声をかけられたって話をSNSで読んで。(注:回文関係者に聞く(1)参照) ようわからんけど、Oちゃんすごいやんって、私の中では評価ダダ上がりですよ。罅さんのブログもそれで知ったんです。
韻を踏みたい
み 罅さんの「来ても良い頃だろ、来いよモテ期!」は、すごい回文やと思って、読んだあと大阪弁で考えたんですよ。いい回文があったらパクりたいよね。たぶんこんなん作ったかなと。
来ても良い頃やろ、来いよモテ期!
来ても良い頃やそうな。ウソやろ?来いよモテ期!
来ても良い頃やん。へぇ?けぇへんやろ。来いよモテ期
来ても良い頃やね。顔かお金やろ?来いよモテ期!でも、元の回文を変えていくと、どんどん平凡になるんです。けっきょく完成された回文は改変しても超えられないっていう。
罅 3つめとかけっこう好きですよ。改作で、作者が見つけていなかったよりよいバリエーションを、他人が発見する可能性も十分あると思います。ただ、見つけてもちょっと発表しにくい雰囲気はあるかもしれないですね。
み ですよね。私はしたいですけどね。でも元の作者からしたら「それ違うで」って思う。あと、大阪弁使うのもずるいんですよ。だって、すっごい作りやすいですよ。「あかんやん」とか「でんな」とか、語尾を大阪弁でやると、うまくまとまってしまうんです。だから、最初は調子に乗ってたくさん作ってたんですけど、逃げる感じになるからね、あんまりしないようにしようかなとは思ってます。
罅 ほかに注意されていることはありますか。
み 作るときは、ほぼ頭のなかで作るんです。だから、ワンセンテンスがいいんですよね。しかも、あんまり音読みの熟語を使わない、聞いてわかるようなやつ。頭のなかで作るとそうなりますね。過去に作ったのを見ていただこうかと思って、いちおう印刷して持ってきました。でも、好きなやつを選んでって言われても、とくにないんですよ。
罅 強いて言えば?
み この
「どーか、おくれ」「ほれ、クオカード」とか。
罅 ああ、素晴らしい。
み でも、たぶん似たようなんが山ほどありますよね。
罅 ぼくは他では見たことないですよ。
み このレベルで、誰も作れんようなのを作りたいですね。ダックスさんがそのパターンですよね。このくらいの長さなのに、ぜったい被らない。そういうのはすごいと思う。
私、あんまり自分のは好きじゃないんです。自己肯定感があんまりないんです。ダジャレでバカにしたひとがすごいすごいって言ってくれるもんやから、たぶんやってるんです。
罅 ぼくは、いただいたリストのなかに好きなのがたくさんあります。
「核あかん!」是か非か、善か悪か。
観察「還元かつ酸化」
鯛特価日に2尾買っといた。み 家ででも見て、捨ててください。
罅 いえいえ、大事にしますよ。
み 最近は、韻踏むやつを作りたいと思ってるんです。こういうのを作っていきたい。
「スタート♪韻!」韻を踏もうと思うと、すべての行で韻踏みたくなるんです。やけど、それをしようと思うとどうしても最初と最後で無理が出る。これは最初をタイトルにしてるんですよね。タイトルに逃げるパターンってあるでしょう。それから、
あすこに居ます
オカンはイケズ
胃の虫鳴かす
悲しむノイズ
京阪カオス
My ニコス
安易☆トータス
妻子欲しい!これは崩壊しましたよね。「だぜ、だぜ」で作りたかったのに、できなかったんですよ。頑張ったほど見た目が面白くないし。
探すで
居ないぜ!?
ダメだぜ…
何故だ!ニノ似だぜ?
なぜダメだぜ?
居ないです…
が!妻子欲しいさ!
罅 内容は面白いですよ。
み でも笑いに逃げるのもよくないですよね。ハゲとかオヤジとかね。大阪弁と一緒ですよね。
罅 笑いは好きじゃない?
み いや、好きだから、やめようって思うんです。それを封印して作らないとダメだなと思います。虫シリーズとかも作りかったんですけどね、難しいし、面白くないんです。自分の好きなのを「どや」みたいに言うのも変でしょう。恥ずかしい。虫とかハゲワードとか大阪弁とかを封印して、そんで韻踏め言われてもね、そんなん作られへんやん。誰も作れ言うてへんけどね。
罅 韻にこだわらなければ、理想的な回文がこのリストにはたくさんありますよ。「異世界対戦」とか気に入ってるでしょう。
異世界対戦、金星対火星。み 気に入ってますねえ。……あ、来ました。
ひざみろ(膝) みィさん、ここ1階やで!
み え、ここ1階やった? ごめん。えー、悪かった。(注:みィさんはこの店が地下にあると思い込んで連絡していたのでした)
膝 はじめまして、ひざでございます。
罅 はじめまして、罅ワレです。
我々は、ひざみろさんの到着を機に店を移動して、3人で話を続けることにしました。
音寄りの回文
膝 みィさんの回文作法で特徴的やと思うのが、文字より音寄りってとこなんです。
み ああ、もちろんです。音ですね。
膝 ぼくはどっちかというと文字寄り。たとえば「は」を、片方では「は」と読んで、もう片方では「わ」と読む緩和規則は、ぼくのなかでは比較的いいんちゃう、と。
み 私は気持ち悪くなる。好きじゃないんです。
罅 そうなんですか。
み 頭のなかで反対から読んだときに回文にならないんです。
膝 ぼくも回文を頭のなかで作るんですが、ぼくは逆に、「を」と「お」を同一視するのは緩和度合が高く感じる。罅ワレさんもたぶんそっちですよね。
罅 まったくそうです。音の違う「は」の同一視は、緩和規則と見なしてすらいないです。みィさんみたいに音で考えるひとは、「しゃ・しゅ・しょ」とかをどう考えているのか気になるんですが。
み そうなんですよね。使いたくないですけど、それが入ってる言葉は多いですよね、「蝶」とか。私らが子どものころ、「てぶくろじゅんさ(手袋巡査)を反対から読んでみ」って言って遊びましたけど、この遊びだと「じゅ」はそれでひとつなんです。そういう考え方だったと思うんです。
罅 ぼくも小さいころ、「とうきょうと」が回文だと思っていたので、そのころは音で考えていたのかもしれないです。
み いまはそんな回文の作り方をするひとはいませんよね。
膝 今まで分析してきた経験則では、文字寄りの人のほうが多いんですよ。いわゆる緩和規則と呼ばれているものを何でもOKとするひとは別として、みィさんのような音寄りのひとは少ない。音をベースにして回文組み立てる人は凄いなって思います。みィさんはどうやって作ってますか?
み ひざの回文の作り方のレベルを落としていったら私になる(笑)。ひざは、私の許容範囲だと思ってる文字数を何倍も超えてるからね。
膝 ぼく、記憶力はぜったい良いですよ。
み 私も数字覚える桁数はかなり行けるけどもね、しんどいんです。年いくと、頭のなかではできたつもりが、書いたらショック受ける。間違ってるんです。何回も頭のなかでリフレインして、音はできてるの。やのに、書いたら「えっ」て思うときはある。
膝 ぼくとみィさんだと、同じように頭で作るのでも、作り方が違うんじゃないかと思います。ぼくは頭で組むとき、もちろん実体はないんだけど、それでも文字で組んでると思うんです。イメージで言うなら、字が書かれたボールが頭のなかに浮かんでいて、それを逆から読んでるような感じ。
み ソロバンをそらでするひとみたいな。
膝 そうそう。みィさんはたぶん、頭のなかに字がないんですよね。
み そう、私は音で覚えて必死で言ってるから、限界がわりとある。
罅 ほかに音で作る人って誰がいるんでしょうか。
膝 音寄りのひとで、みィさんぐらい回文に慣れてるひと、誰かいるかなあ。
み 音寄りタイプの人はそもそも回文を作らないのかな。ダジャレとかに行くのか。
膝 そうかもわからないですね。
み 私も褒められるから無理に回文を作ってるけど、ほんとは回文じゃないのかもしれない。ほかで認められればそっちのほうがいいのに、誰も相手にしてくれないから、回文作ってるんですね。回文師としては失格です。インタビューになりません。
罅 いやいや(笑)
膝 失格も何も、回文に格なんてないですから。好きか嫌いかです。
これからはちゃんとしたい
膝 みィさんは対称性に関してこだわりがあるなとよく思います。
み それは虫でもそうです。昆虫でもミミズでも対称形なんです。でもあんまり対称に見えないでしょう。それで蝶が好きになったんです。蝶の翅の模様って適当についてると思うでしょう。でも不思議なぐらい対称なんです。蝶は模様が見えるから対称なのがわかりやすい。その対称性はものすごい好きなんです。
罅 そういうところで回文と蝶がつながっているんですね。
み 蝶も、内臓は対称じゃないんですよ。でも蝶は胴が細いでしょう。無視できるんですよ、内臓を。だから私、翅だけとりたいねん。翅だけにすると対称なんです。
膝 音寄りの考え方をしていてなおかつ対称性に美しさを感じるのであれば、回文がいちばんなんじゃないんですかね。みィさんは回文の「構造」に興味があるんやなと思います。みィさん、韻文好きでしょう。
み そうそう、そうなんです。
膝 みィさんの韻を踏む回文って、端から作ってるんですか?
み 端も何もない。候補をむちゃくちゃたくさん作ったうちのいくつかを組み合わせてるの。それは簡単なんやけど、できた内容がほんまに言葉遊びで終わってしまう。意味が通じないとね。
膝 意味が通じなくても別にいいんじゃないかなあ。ぼく、マザーグースの脚韻が好きなんですけど、マザーグースでもナンセンス文がたくさんあります。
み ダックスさんみたいなセンスがあると、意味ない言葉が活きてきますよね。でもそれは私にはできない。意味が通るのを作りたくて仕方ない。これからはちゃんとしたいって思ってるんです。できるだけ大阪弁を封印して、ハゲワードも封印して、ちゃんとした回文を作ろうかなと思ってる。
膝 でももうできてると思いますよ。「異世界対戦……」はどうなんですか。あれは今でもいいと思っている?
み ……ですね。
膝 ぼくはこれが好きなんですよ。
‘凸凹’で葛藤、音?訓?「おうとつ」か「でこぼこ」で。これはやべーな。ここまですごいと、「葛藤」の「っ」が惜しく見える。
罅 そうなんですよ。まったく同感。
膝 あ、やっぱり。
み だからあんまり言いたくないんですよ。
膝 これもすごいなあ:
飲む、打つ、買う、食う、かつ産むの。みィさん、言葉を重ねるの好きですよね。名詞にかぎらず、同じ品詞を並べるのはみィさんらしい。最近の
わたし、卵屋、酒屋、オヤジ、八百屋、傘屋、五股したわ!もそうですね。
み そういう技巧は、狙ったようであんまり好きではない。恥ずかしい。ひとの作品なら許せるんですけどね。自分はええ年してほんま恥ずかしい、死んだあと笑われるんちゃうかと思ってしまう。若気の至りって言えないんですよ。それは苦しいです。
罅 じゃあ、みんな若いうちにやりたいことをやっておかないと。
み そう、いまのうちにね。
[2016年3月11日談]
みィさんの作品リスト、読んでみたいです!
返信削除もう自分で回文を作る気力が無くなってしまうかもしれませんが、それでも…。
音寄りの話も、とても興味深かったです。
頭の中だけで回文を作るというのは僕にとっては暗算のような扱いで
紙やスマホを使った場合と出力される結果に違いはないと思っていたのですが。
深くて面白いですね、回文の世界は。
素敵なインタビュー、ありがとうございました。
「作品リスト」と書いたのは、回文師botと覆面回文に出された回文をまとめたものでした。頑張ればネット上から抽出できると思いますが、せっかくなのでお目にかかるときに持っていきますね(みィさんの許可得てないけど……)。
削除頭のなかで作るのと書いて作るのの違い、音で考えるのと文字で考えるのの違いは、もっといろんなひとに話を聞いてみたくなりました。
罅ワレさんのインタビュー企画、今まで大変興味深く読んでおりましたが、まさか私を取り上げて下さる日がくるとは。恐縮至極、嬉しさMAXです。プリントアウトした回文リストはbotや覆面回文のもので目新しい作品ではありませんが、もしダックスさんに目を通して頂けるなら幸いです。実はダックスさんの回文をウナパンで聞いていて、医歯薬系の暗記の語呂合わせっぽいなと漠然と感じることがありました。それがホントに今年の医師国家試験を受験されていたなんて!改めて合格おめでとうございます。
返信削除人の認知特性の分類で聴覚優位、視覚優位があると聞いたことがあります。そういった特性が回文にも影響しているなら面白いですね。
罅ワレさん、今後ひざ君やモーリー君たちにインタビューされる折はぜひ作成過程や回文文法について突っ込んだ議論をお願いします。
こちらこそありがとうございました。とても有意義な企画になったと思います。回文と関係ない私の友人がこれを読んで、こういう人好きだと言ってましたので、みィさんの魅力もそこそこ伝わる記事になったようで安心しました。
削除聴覚優位・視覚優位は、なるほど。今回の話と大いに関係していそうですね。どうやって作るかは今後のインタビューでより重視したいです。
謙遜なさってますけどmixiでみィさんを発見した時は「こんな凄い人がいるのか!」って驚きましたよ。
返信削除まさかその後親しくやり取りして頂けることになるとは思わなかったです。
罅ワレさんは平日に大阪出張ですか?
みィさんほんとすごい人ですねえ。そのみィさんがブログ旧版のころからコメントしてくださっているのはまことに嬉しい限り。
削除いつかはインタビューしたいと思いながらなかなか機会ができなかったのですが、金曜に京都出張になったので、その機にちょっと移動して大阪でお話伺ったのでした。
O太郎さんは、私がまだ数字へのこだわりがあったアレな頃もバカにせず交流して下さった貴重な方で、たいへん感謝しています。
削除どんな感じかというと、脳内でニャンニャンニャンニャン箱(2*2*2*2箱)を作ったりしていました。
この箱には2乗して各桁を足すと合計が16(2の4乗)になる数だけが入れます。(例;13,22,41)
昔はこのような空想上の箱がいくつも頭の中にありましたが加齢のせいか全て崩壊しました。(苦笑)
脱線しましたが、パズル愛好家の中から回文に興味を示してくれる人がまだまだ現れそうで回文の将来が楽しみです。
頭のなか、すごい賑やかさだったんですね、崩壊が惜しまれます。
削除ニャンニャンニャンニャン箱の中身、閑散としていそうな気が一瞬しましたが、130000000とか4000000001とかも入ってるんですね。思いもかけない数が入ってそうで、考えてみると面白そう。
みィさんありがとうございます!
返信削除炯眼恐れ入りました。試験はいつも語呂合わせ頼りで…(作るのも好きでした)
回文リストのご許可もありがとうございます。拝見するのが今からすごく楽しみです^^
ダックスさんの語呂合わせは面白そうですねー。
削除リスト、忘れないように持って行きます。