2016/08/03

[039] 続々・文字の並べ替えと回文


引退した弁護団、ただすごい私語だし。

[いんたいしたべんごだんただすごいしごだし](非回文)

前回と同様、やっぱり上記の文は回文ではありません。前回紹介した縦横文ともちょっと違うのです。さてこの文はいったい何でしょう。

縦横文(右縦書き版)


前回紹介した縦横文は、「長方形状に文字を並べたとき、横読みでも縦読みでも同じになる文」でした。たとえば「内科医・眼科医、たいがいが葉ニンニク歓待にクタクタ。」は3×9の長方形に並べると
ないかいがんかいた
いがいがはにんにく
かんたいにくたくた
となり、横でも縦でも同じになります。

でも正直なところ、このルールには違和感がないでしょうか。日本語を縦書きにする場合、行は右から左に進む(右縦書き)のが普通ですが、上記の縦横文は、縦に読むさい、行が左から右に進んでいます(左縦書き)。これはちょっと気持ち悪い。ぜひ、右縦書きの縦横文を考えたい。

この「右縦書き版縦横文」を、まずは順当に正方形で考えてみましょう。右縦書き版縦横文は「右縦書きを横書きに直す」という文字の並べ替えで変わらない文字列ですから、たとえば4×4の場合はその並べ替えは次のようになります。


これは要するに、盤面を左方向に90度回転させるという並べ替えです。したがって、この並べ替えを繰り返して元に戻る回数は「4」です。文字がそれぞれ4つずつ出現するということなので、かなり作りにくいことが想像されます。ちょっとやる気起きない。

でも右縦書き版縦横文を諦めるのはまだ早いのです。前回と同様、長方形で考えてみればうまくいくかもしれません。とりあえず盤面が小さいところで、3×4でやってみます。この場合、文字の並べ替えは次のとおりです。


並べ替えの様子は、矢印で図示すると次のようになります。


元に戻る回数は6回です。多いです。これも作る気にならない。ところが、です。面白いことに、3×4ではなく4×3で考えると、次のようになって、元に戻る回数が3回になります。



前回の左縦書き版縦横文は、縦と横の役割が対称だったので、3×4でも4×3でも話が同じでしたが、右縦書きにすると縦と横の役割が非対称になって、元に戻る回数も変わるのです。4×3で右縦書き版縦横文を作ってみると、たとえば
採算いいまま、3万。
いまいち意味がわかりませんが、次のように4×3に並べると、横読みと、右からの縦読みがたしかに一致していることがわかります。
さいさ
んいい
ままさ
んまん
他の場合の戻ってくる回数も調べて表にしたのが次です。



太字の数字が盤面の縦横サイズで、行と列の交わるところに、戻ってくる回数が書き込まれています。色をつけてあるところは、回数が5回以下のところです。縦が横より1マス大きいときに、3回で戻ってくることがわかります。そこで、5×4で作ってみたのが、冒頭の「引退した弁護団、ただすごい私語だし。」でした。
いんたい
したべん
ごだんた
だすごい
しごだし
横と縦が絶妙に噛み合っていてなんだか不思議な気分になりますねえ。ぜひいろいろなサイズで作ってみてください!



おまけ:数学的にいうと


右縦書き版縦横文を定義する並べ替えは、左縦書き版と同様に数学的に記述できます。

縦mマス、横nマスの盤面に、長さm×nの文字列
a(0) a(1) a(2) ... a(mn-1)
を横書きし、これを縦書きだと思って上から下方向に読んだものを
b(0) b(1) b(2) ... b(mn-1)
とします。次の図はm=4、n=3の場合です。b(0)=a(2), b(1)=a(5), b(2)=a(8), ……などとなっています。


この b は、a を用いて次のように簡潔に表せます。
b(i)=a(i×n+n-1 (mod mn+1))
つまり、カッコの中に入るのは、「iをn倍して、n-1を足し、mn+1で割った余り」です。上に図示したm=4、n=3の例を見ると、右のカッコ内の数を3倍して2を足し、13(=3×4+1)で割った余りが、左の数になっていることがわかると思います。

この並べ替えを繰り返して元に戻る回数を計算すると、(詳細は省略しますがいろいろ上手くいって)nj=1 (mod mn+1)となる最小の j がその回数であると分かります。上記の表は、この j を計算して書き並べたものです。

左縦書き版のときは、nj=1 (mod mn-1)となる最小の j が繰り返し回数だったことを考えると、妙に綺麗にできていて興味深いです。



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