2017/06/06

[043] いろいろな表記と回文(1)

右耳、畳み気味。
(旧版:(153) 2008/12/06

だいぶ間が空いてしまいましたが、前回 まで、回文の定義の話をしていたのでした。そこで提案した定義は
回文とは、文であって、その表記のひとつが「逆から辿ると元と同じ」という条件を満たすものである。
というものでした。たとえば、「竹やぶ、焼けた。」が回文である、というのは何を意味しているかといえば、「竹やぶ、焼けた。」が表す文の、表記のひとつ「たけやぶやけた」が、上記の条件を満たしている、ということです。(「竹やぶ、焼けた。」という文字の列自体は文ではなく、これもまた「たけやぶやけた」と同様、文の「表記」のひとつである、という点にも注意が必要なのでした。「文」の定義はよくわからないから保留しております。)

さて、同じ文にも、いろいろな表記があります。「たけやぶやけた」も「竹やぶ、焼けた。」も「竹藪焼けた」も「TAKEYABUYAKETA」も「takeyabu yaketa.」も、同じ文をいろいろな仕方で表記したものです。したがって、その表記の仕方によって、さまざまな種類の回文が考えられることになります。今回はそれらを紹介しますよ。

ふつうの回文


通常、回文といえば、ひらがなで表記したときに「逆から辿ると元と同じ」になる文を指します。たとえば、「新聞紙」が回文だ、というのはどういう意味かといえば、これをひらがなで表記した「しんぶんし」が「逆から辿ると元と同じ」という条件を満たす、ということです。

面白いのは、同じ文が複数のひらがな書きを持つ場合があることです。たとえば「鰈の鰭か。」という文は、「かれいのひれか」とひらがな書きすると回文にならないのですが、「かれひのひれか」と歴史的仮名遣いでひらがな書きすると回文の条件を満たします。

上に挙げた回文「右耳、畳み気味。」も、「みぎみみたたみぎみ」という表記だと回文にならないのですが、「みぎみゝたゝみぎみ」と繰り返し記号を使ったひらがな書きなら回文になります。上記の定義は、このようなケースも回文と見なすようになっているのでした。

五箱の小箱


「五箱の小箱」は、「こ゛はこのこは゛こ」と、濁点を独立した1字と考えてひらがな表記すると回文になっており、このようなのを「五箱の小箱回文」と勝手に呼んでいます。igatoxinさんが、半角カナを使った「ゴハコノコバコ」という表記を考えると自然であると教えてくれまして、たしかに「半角カナ回文」とか言ったほうがわかりやすいかもしれません。

たとえば「投げ続けな」は、この表記法だと「なけ゛つつ゛けな」となって、回文になります。「維持費厳しい」も「いし゛ひきひ゛しい」となって回文です。

漢字回文・漢字かな交じり回文


ひらがな書きでなく、漢字を交えた表記を考えることもあります。「車輪三個、三輪車。」は、「車輪三個三輪車」という(句読点を外した)表記が「逆から辿ると元と同じ」という条件を満たしており、回文になっています。有名な「山本山」もそうです。

漢字だけでなく、ローマ字などもありにして考えることもできます。モーリーさんの傑作
TEENの職無いなら減らない無職のNEET
がよい例です。

ローマ字回文


ローマ字で書いたときに回文の条件を満たす文を考えるのも一般的です。たとえば「浅ましい爺様さ」は「asamasiijiisamasa」と書くと回文の条件を満たしています。

「鼻血だなー」というのも、この文のローマ字表記として「hanadidanah」を認めることにすれば、回文になります。

ローマ字書きの仕方をもっと厳格にして、たとえば「訓令式」の表記に限って考えるとどうなるか、と考えるのも面白いと思います。訓令式だと、長音は母音の上に山形^をつけて表すことになっているので、「鼻血だなー」は「hanadidanâ」となり、回文になりません。他方「浅ましい爺様さ」は「asamasîzîsamasa」となって、やはり回文です。

ポルトガル式」というローマ字の表記法で作るのは面白そうな感じがしています。「おこげで動こう」は「vocoguedeugocov」となって回文です……意味はわかりませんけど。

モールス符号回文


モールス符号による表記で回文を考えるとどうなるでしょう。このページ に例がいろいろ載っています。たとえば「移転した」という文が回文になるとのこと。「ツー」を「l」、「トン」を「.」で表すと、「移転した」は
.l .l.ll .l.l. ll.l. l.
となり、スペースを詰めれば回文になっている、というわけです。

点字回文


点字表記による回文、「点字回文」も考えられます。点字表記はひらがな表記と近いのですが、濁音を「濁音符+清音」で表したり、拗音を「拗音符+清音」で表したりするので、点字表記による回文はちょっと独特になります。たとえば「私ただちょっと茶出したわ」は、点字表記すると「⠄⠕⠳ ⠕⠐⠕ ⠈⠞⠂⠞ ⠈⠕ ⠐⠕⠳⠕⠄」(わたした[濁音符]た[拗音符]とっと[拗音符]た[濁音符]たしたわ)となり、回文になっています。

勝手に表記法を作る


既存の表記法を使う義理もないので、勝手な表記法を自分で編み出して回文を考えてもよいと思います。たとえば、ローマ字表記で子音だけを書く、とか。アラビア語では子音しか表記しないそうだし、日本語でも「詳しく」を「kwsk」と書いたりすることがあるから、まあ認められるのでは。この表記だと「責められます」は「smrrms」となって回文ですね。……面白いかはわかりませんけど。

残る課題


こうして上記の定義にはいろいろな回文が含まれているのですが、世の中で「回文」と呼ばれるものには、次のようなのもあります。これらは、上記の定義のもとでどう考えるべきでしょうか。
  1. 「消防署」(しょ-う-ぼ-う-しょ)などの「拍単位回文」
  2. 「鯛は湧いた」(たい"わ"わいた)、「赤いカー」(あかいか"あ")などのいわゆる「音ルール」による回文
  3. 「カツラが落下」(かつらがらっか)、「箪笥盗んだ」(たんすぬすんだ)などのいわゆる「緩和規則」を用いた回文
次回以降、これらについて考えます。たぶんこの順番にやります。まだ先は長いです。

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