2015/01/05

[001] 新版まえがき


せまいさなぎ脱ぎなさいませ。
[せまいさなぎぬぎなさいませ]
(旧版:(1) 2007/05/15

2007年から断続的に、『罅ワレ回文』という回文ブログを書いてきました。自作回文だけでなく、回文一般についてのつれづれなる考察を記したもので、回文に関心のある方にとってはそこそこ興味深い内容になっていると思います。ただ、思いついたことを思いつくままに書き綴っていたので、読み返してみると、全体にだいぶ乱雑です。また、ブログ開始当初は自分の回文の評価基準がいい加減で、今なら没にするようなのが平気で載っていたりするし、あるいは、あやふやな知識をもとに書いた記事が後から間違いだらけであるのが発覚したりしていて、内容をまとめ直したいなあとしばらく前から考えていました。このたび、ようやく重い腰を上げる覚悟がつき、「新版」をスタートさせる次第です。
旧版を整理するのが主要な目的なので、回文も、つれづれなる考察も、旧版のものの流用改変が大半を占めるはずです。旧版をお読みくださっていた方には申し訳ないのですが、たまには新作回文や、回文についての新たな考察も盛り込んでいくつもりでおりますので(とはいえまだ何の構想もないのですが)、引き続きお読みいただければありがたいです。

標記の「せまいさなぎ脱ぎなさいませ」は、思い出深い回文です。
私が回文を作り始めたのは小学校3年くらいのころで、それからしばらくの間、ちょこちょこ作っては友人や先生に見せて遊んでいたのですが、中学生になってから徐々に「思いつく単語はあらかた回し尽くしたかも……」「似たような回文ばかり作っている……」と感じるようになり、作っていても感興が湧かなくなりました。学校の図書館で『さかさ言葉「回文」のすべて』という名著を知ったことも、倦怠に拍車をかけました。「この本に膨大に載っているような良質回文を、自分は再発見・劣化再生産しているだけなのでは……」「作っても、既作のバリエーションにしかならないのでは……」という気分です。“回文ニヒリズム”とでも呼ぶべきこの病は恐ろしいもので、いっこうに脱することができませんでした。
そうして回文を作っていたことなぞ忘れかけた大学生の頃。街を歩いていて、商店の入口に敷かれたマットの「いらっしゃいませ」の文字が目にとまりました。なぜかそのとき、「いませ」という文字列の逆読みが「せまい」であるのに意識が向き、かつての回文脳を呼び覚ましたところ、「いませ……なさいませ……せまいさなぎ!」となったのです。
この回文の思いつき方は、そのときの自分には鮮烈なものでした。中学のころまでは、何らかの単語(名詞、動詞、形容詞といった自立語)を起点にすることしか頭になかったため、回文制作が行き詰まって「同じようなものしかできない」「結局のところ誰が作っても似たようなものになる」という回文ニヒリズムにおかされるのは必然であったと言えます。この「せまいさなぎ脱ぎなさいませ」に至ったのには、「……いませ」という、単語にならない言い回しの断片に着眼できたことがカギになっており、「意味のある単語を起点とする」という発想からでは、自分にこの回文はおそらく作れなかったろうと思います。回文にはまだ自分の知らぬ発想法があるに違いないと感じました。

「新版 罅ワレ回文」では、旧版と同じく、回文を作るときの発想法や回文のルールにしばしば言及します。こういう話題は、回文作りの根幹にかかわるはずのものですが、どうしたわけかあまり語られることがありません。発想法やルールなんてだいたいわかっている、といった声も聞かれそうです。が、それらはけっして単純なものではなさそうに思います。一見単純そうな根幹のところを可能な限り言語化して追究することで、回文ニヒリズムから遥か遠い、新たな地平を切り拓けるのではないか、せまいさなぎが脱げるのではないか、ということを、この新版では旧版にもまして強調したいと考えています。
と、何やら偉そうに仰々しいことを言っておりますが、私もなかなかさなぎが「脱げぬ」ので、ブログ再出発を機に、脱ぎ方をまたあれこれ考えてゆきたい所存です。

コメントは大いに歓迎します。単なる感想はもちろん、誤字の指摘とかもありがたいですし、回文の改作も遠慮なくどうぞ。回文では群衆知がそうとうな力を発揮するはずです。みんなで脱ぎましょう!
世界が素晴らしい回文に溢れますように!

13 件のコメント:

  1. 再始動おめでとうございます。
    皆様もきっと喜ぶことでしょう。
    またあの回文研究が披露されると思うとフフッヒしてしまいます。

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    1. 記念すべき初コメントありがとうございます。気づくの早い!
      「もっと読む」のあとが旧版よりも饒舌に(過激に?)なる予定です。
      フフッヒしたらまたコメントよろしくお願いします。

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    2. RSSリーダーに登録していた甲斐があったというものです。
      旧版でも大分盛り上がっていた記憶がありますが(笑)
      (ログアウト状態でコメしてみます)

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    3. コメントテストありがとうございます。直っててよかったです。
      旧版どころの騒ぎではない大盛り上がりです。おそらく。

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  2. このコメントは投稿者によって削除されました。

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    1. バンザイ
      喜んでます!

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    2. 喜んでくださり、ありがとうございます!
      O太郎さんと某教室で出会ったのが巡りめぐって、新版開始につながっているかもしれません。感謝感謝。
      またなんでも遠慮なくコメントしてください。「カキノキ」の回文は記事で触れさせていただくつもりです。

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    3. 気づかなかったんですが、ID持ってないとコメントできないようになってたんですね。すいません。直しました。
      Bloggerはまだ慣れてないので、しばらく苦労しそう。

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  3. 「世界が素晴らしい回文に溢れますように!」
    ↑『罅ワレ回文』新版まえがきの最高の結びですね。
    このブログが回文プロトコルになる予感がします。

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    1. 返信し損ねました……下が返信ですので。

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  4. いつもありがとうございます。新版でもよろしくお願いします。
    まえがきが「脱ぎましょう!」で終わるのはどうかと思ったもので……でも、「世界が素晴らしい回文に溢れますように」の精神は、このブログを書くにあたってずっと意識していたいと思っています。
    次の記事を書いていたらこんな時間になってしまいました。明日アップするつもりです。

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  5. 再始動おめでとう!
    僕の好きな回文が取り上げられる日を待ってます。

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    1. コメントありがとうございます!
      「タレ」は取り上げるけど「ぼくは久保」は出てこないですたぶん。

      さっそく更新が滞ってますが、元気があれば今日明日には記事をアップしたいところ。
      回文には労力がかかるものよ。

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