回文を作っている人にはよく知られているように、世に発表されている回文のうち、文字数が偶数のものは奇数のものよりかなり少なくなっています。以前調べたところでは、偶数字の回文は
- 『ダンスがすんだ』(フジモトマサル著、新潮社)では、76個中10個、13.2%
- 『軽い機敏な仔猫何匹いるか』(土屋耕一著、誠文堂新光社)では、478個中39個、8.2%
しかありません。後者の本は五七五の回文(17文字)が多いので、そのぶん偶数字回文が少なくなっているという事情はあるのですが、五七五のものを除いてもやはり偶数字回文は少ないのです。
その理由として考えられるのは、奇数字回文にだけ存在する「中央の一字」です。中央の一字は、それと対応する文字がなく自由度が高いので、意味の通る文章を作ろうとするとそこで辻褄合わせがしやすく、自然と奇数字の回文が増えるのでは、という仮説が思いつきます。ただ、これは「回文を作るときの実感からして、たぶんそうだろう」という程度のものなので、より明快な説明ができればと思いつつ、まだ成功していません。
理由以前の問題として、偶数字回文の割合を、もっと多くの回文のデータをもとに調べたいと常々思っておりましたが、このたびめでたく、それが可能なウェブサイトを見つけてしまいました。
それは、回文業界では有名な回文投稿サイト「回文21面相」です。 前回 と前々回 に引き続き、このサイトの回文を題材とし、回文の字数について調べたことを報告します。
回文の字数の分布
まず、2020年6月30日までに「回文21面相」に投稿された回文の字数の分布を見てみます。(なお、「長音無視」のように字数の変更を伴う緩和規則を使っている回文は、扱うとややこしくなるので省いて調べています。)
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回文の字数の分布 |
奇数字が山、偶数字が谷になって凸凹しているのがわかると思います。
奇数字のところだけ抜きだすと次のとおりです。
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奇数字回文の字数の分布 |
かなり綺麗なカーブを描いていますが、例外的に17字のところが飛び出しているのがわかります。これは五七五の回文が特別多いからだと推測され、実際五七五の回文は数多く投稿されているようです(割合まではすみませんが調べていません)。同様に、(五七五七七の回文が多いために)31字のところも飛び出しているように見えますが、17字のものほどはっきりとはわかりません。
同様に偶数字のところだけ抜きだすと次のとおりです。
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偶数字回文の字数の分布 |
これもおおむね綺麗なカーブを描いていますが、14字のところがとくにいびつになっているように見えます。これは七七の回文が多いからだと推測でき、実際七七の回文は比較的多いようですが、これも詳しく個数など調べていないのでわかりません。
なお、調べた全回文の字数の平均値は、13.43字という結果でした。
字数の偶奇
調べた回文の総数は43938個ですが、そのうち偶数字の回文は4344個で、割合にして0.0989、およそ10%となりました。先に挙げた2冊の本での割合もこれに近く、偶数字回文はだいたい1割前後になると言えそうです。
この「1割」という値は前から気になっています。以前、自分で作った回文のなかの偶数字回文の割合を調べたのですが、やはり1割ちょっとでした。この値がさまざまな回文の母集団でだいたい一致していることにどういう意味があるのか、何らかの数学的なアプローチによって説明できるのか、というのを昔から考えているのですがよくわかりません。字数の分布のカーブも合わせて説明できるとよいのですが。ご興味ある方はぜひ考えてみてください。
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