2020/07/18

[050]「回文21面相」と偽回文


「何歳? 天才爺さんて」
「天才爺さん、孫が約三歳児だ。
しかしだ、爺さん、昨夜が5万歳!」
「爺さんて天才! 爺さん、天才な!」

[なんさいてんさいじいさんて
てんさいじいさんまごがやくさんさいじだ
しかしだじいさんさくやがごまんさい
じいさんててんさいじいさんてんさいな]
(初出:「手賀沼ジュンのウナンサッタリパンツ」2015年5月31日))

偽回文(ぎかいぶん/にせかいぶん)とは、作った本人は回文のつもりだったのに実は回文になっていなかった、出来損ない回文のことを指す言葉です。回文を作る際、注意していてもなかなか偽回文からは逃げられません。私も以前(5年も前ですが)、「偽回文の恐怖」という記事で書いたように、ラジオの回文コーナーに投稿したものが実は偽回文だったことがあります。上掲のものがそれです。(どこが間違っているでしょう?)

この偽回文、たくさん事例があれば分析してみたいものだと思いながらも、偽回文だと気づかれたものは削除されたり修正されたりしてしまうために、なかなか事例収集が難しかったのです。が、このたびめでたく、偽回文が収集可能なサイトを見つけてしまいました。

それは、回文業界では有名な回文投稿サイト「回文21面相」です。 前回 に引き続き、このサイトの回文を分析することで、偽回文について考えます。


偽回文の種類


2020年6月30日までに「回文21面相」に登録されている通常のルールの回文、のべ44257個のうち、偽回文の個数は129個です。およそ0.3%、つまり1000個に3個が偽回文ということになります。多いと見るか少ないと見るかは人それぞれでしょうが、私の印象では「けっこう多いな」という感じです。

この129個の偽回文、眺めてみると、「間違いかた」のパターンがいくつかあることに気がつきます。それぞれの間違いかたを推測して分類してみると、次のようになります。(1つだけ原因不明のものがあったので、個数の合計が1だけ足りなくなっています。)

  • (1) 誤記(51個)
  • (2) 互換(46個)
    • (2.1) 隣接互換(37個)
    • (2.2) 遠隔互換(9個)
  • (3) 脱落(27個)
  • (4) 変異(4個)

以下これらについて説明します。


(1) 誤記(51個)

実はこれがいちばん多い間違いかたです。つまり、実はちゃんと回文が作れていたのだが、登録するときに間違って入力している、というケース。たとえば「タイで猪ら嵐凌いでいた(たいでいのししらあらししのいでいた)」という回文を作ったのに、登録時にうっかり

タイで猪、嵐凌いでいた(たいでいのししあらししのいでいた)

としてしまい偽回文になった、というものです。(本来なら「回文21面相」から実例を挙げたいのですが、なんだか「晒す」ようで気が引けますので、私がでっち上げた例を掲載します。「回文21面相」の実例が見たい方は個人的にご連絡くだされば検討します。)

このケースはただの誤記なのでつまらないようですが、なぜ誤記をしてしまったのか、と考えると多少面白いです。実例を眺めてみると、正しい回文のほうが不自然な日本語になっていて、それを無意識に自然な日本語に直した、と思われるケースが目立ちます。誤記による偽回文は、回文の日本語としての不自然さの表れだと言えそうです。逆に、このような偽回文を避けるには、不自然な日本語を避けること、避けられない場合は不自然であることを意識すること、が効果的なのかもしれません。


(2) 互換(46個)

これは、文字の順序が入れ替わってしまったために偽回文になったケースです。たとえば

活かすデザインは犯罪ですかい(いかすでざいんははんざいですかい)

という文は、ぱっと見ると回文のようですが、「でざいん」の中の「ざい」という2文字が、対応する部分で「いざ」になっておらず「ざい」と入れ替わってしまっていて、偽回文になっています。入れ替わっているというよりは、ひっくり返すのを忘れている、と言ったほうが適切なのかもしれません。

「互換」のケースは、詳しく見るとさらに2つに分類できます。ひとつは「隣接互換」で、先ほどの例のように、隣り合った文字が入れ替わっているケースです。もうひとつは「遠隔互換」で、一文字を隔てて文字が入れ替わっているケースです。記事冒頭の「何歳?天才爺さんて……」の例がこれで、最初の「なんさいて」の逆さが「ていさんな」とならないといけないところ、「さ」を隔てて「い」と「ん」がひっくり返っています。あるいは、「んさい」という3文字をまとめてひっくり返し忘れている、と見たほうが適切かもしれません。

このケースは回文を頭の中で作っているとしばしば起こります。私もやりがちです。とにかく注意深く逆読みして防ぐしかなさそうです。


(3) 脱落(27個)

1文字をうっかり見落としてしまって偽回文になったケースです。たとえば

買い叩いたイカ(かいたたいたいか)

は、「た」(あるいは「い」)を見落としたために偽回文になっています。

実例を眺めてみると、同じ文字が近接していくつかある場合、回文作成時に混乱が生じて見落としが起こりがちであるようです。


(4) 変異(4個)

1文字をうっかり別の文字に変えてしまって偽回文になるケースです。たとえば

練馬住まいね(ねりまずまいね)

は、「り」になるべきところが「い」に変わってしまって偽回文になっています。

4個の実例を見ただけでは、間違いが起こった理由は判然としませんでした。私の経験では、回文を作る際、候補となる単語をあれこれ変えているうちにこういう間違いが起こりがちであるように思いますが、実例について何が起こっていたのかは残念ながらわかりません。


これらから学んで偽回文を避けていきたいところですが、背後から忍び寄る偽回文の魔の手からはそうそう簡単には逃れられませんので(笑)どうぞご注意を。

4 件のコメント:

  1. 原因不明というのがちょっと気になりますね。どんなのですか?

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    1. 説明が難しいのですが、要するにぜんぜん回文に見えないのです。そのため、何がどう間違っているのか判断不能、というものでした。
      お名前を書いていただけてないですが、もしTwitterなどやられてたりしましたら、DMで情報をお伝えできると思います。

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  2. すみません。O太郎です。教えて

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    1. O太郎さんだったんですね笑 なんで匿名になってしまうんだろうか……。では後ほど情報送ります。

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