世の中は、異端派か反対派かなのよ。
[よのなかは いたんはかはんたいはかなのよ]
前回の続きで、
世の中ね、顔かお金かなのよ。という有名回文についてです。
前回も書いたように、「自分がこの回文を知らなかったとして、自力でこれが作れるか」と考えてみるに、私にはどうも無理そうな感じがしています。原作者がどういう思考回路でこの回文に至ったかを想像してみるのは面白いので、やってみましょう。
たとえば、この回文が「お金」なり「顔」なりからスタートして作られたと考えてみます。いずれかの語から「お金、顔」という回文に至るのはひとまず自然です。とはいえ、これだと単に名詞を並べただけで、文の言いたいことがわからないので、言葉を足してもう少し長くしたくなります。もしここから「顔かお金か」というフレーズに至れれば、「かね、顔かお金か」となるので、余った「かね」を「世の中ね」で補う、という手も思いつくかもしれません。
が、これは、答えを知ってしまっている自分の後出しジャンケン的発想に思われます。「AかBか」という言い回しは、私にはそう簡単に思いつかなそう。たとえば、「桜」と「草」というのは回文でたまに見る組み合わせですが、これらの語から「草か桜か」という言い回しに至るのは決して自然な発想ではない気がするわけです。
こういう考えもあるかもしれません。「お金」「顔」という語から、世の中ではお金か顔が重視されているね、というストーリーに至ったのではなかろうか。その意味を表す回文を作ろうとすると「世の中ね、顔かお金かなのよ」にはすんなり至れるであろう。これはもっともらしい考え方で、実際これが正解な感じもほんのりとするのですが、やっぱり後出し感も否めません。ピッタリ回文になるような意味を思いつく、というのは奇跡と言ってよく(単語の数は有限ですが、意味の数は無限!)、そういう奇跡が起こったと考えるよりも、「世の中ね、顔かお金かなのよ」にもっと地道に至れるような道筋を指向したいです。
あるとき、次のような考えに至りました。この回文は「世の中……かなのよ」という構文から作ったものと考えたほうがいいのかもしれない。そうすると、地道に進んでいけば(そして多少運が良ければ)この回文にたどり着けるかもしれないぞ。
「世の中……かなのよ」は、「か」が余っているので、これを何かで補わねばなりません。すぐ思いつくのは「世の中馬鹿なのよ」「世の中はお墓なのよ」みたいに、「か」を名詞・形容動詞の類の語末とするパターンですが、そうでない可能性を探索して、助詞の「か」にしてみよう、「AかBか」の「か」にしてみようと思いついたとする。つまり「世の中AかBかなのよ」となる。するとたとえば
世の中、クルミかミルクかなのよ。とか
世の中、嘘か仮想かなのよ。とかいろいろできます。後者はけっこう面白いかも。これらの回文を「クルミ」や「仮想」から作るのは難しそうに思いませんでしょうか。
この「世の中AかBかなのよ」のパターン、あれこれたくさん作れるのですが、真ん中に持ってくる言葉の自由度が高すぎて、かえって考えにくい気もしてきます。そこで、言葉の探索範囲をあえて制限すべく、「世の中」のあとに、助詞を置いてみます。「世の中は」「世の中な」「世の中さ」などなど。すると
世の中は、胃派か肺派かなのよ。とか
世の中てのは、破壊か母の手かなのよ。とかができます。冒頭の回文
世の中は、異端派か反対派かなのよ。もこうして作りました。そして出だしを「世の中ね」にしてみれば、求めている「顔かお金か」にうまくすれば辿り着けそう。そんな期待がほんのり湧いてきます。
ということで私はようやく満足したのですが、回文を作るときにどういう思考回路を辿るのが自然かは、もちろん人それぞれと思います。「顔かお金か」に至るなんて余裕ですよ、ぜんぜん大したことないですよ、という人もいることでしょう。「あの回文のこういうところがすごい」「この回文はこうやって作りました」などの具体的な話を、多くの人とできたら有意義だろうと思っています。
「異端派か反対派」いいですね。これまた有名なテンプレ「イタリアでは~でありたい」にも適用できます。
返信削除「右派」「左派」、ナンクロ辞書で「12321は」で検索される「アリタリア派」など‘は’の尻尾付きを作るのに「派」で終わらせる例はよくあるんですが、
その中でこれは程よい長さと使いやすさを備えた傑作ですね。
ありがとうございます。反対―異端派、もまたテンプレと言われるんでしょうが、いたるところテンプレなこういう回文でも、発想次第で面白いことがいろいろできそうに思います。
削除私、幸い独力で思い付いていまして、その時の記憶もなんとなくあるので参考に述べます。
返信削除①「世の中」~「なのよ」の対応に気付く
②〔世の中金だよ〕という意味のことを言いたい
③トライ1:「世の中金なのよ」・・・逆さに読んで同じにならないので失敗
④トライ2:「世の中ね金かなのよ」・・・逆さに読むと同じだけど文法的におかしい
⑤「金」と並列になる言葉が欲しい。語頭は「か」。⇒「顔」が候補
⑥トライ3:「世の中ね顔か金かなのよ」・・・「お」が余っているので失敗
⑦でも「金」を「お金」すればOKだな~。
青豆です。
削除私も②に至った時点で自動的に到達する回文だと思いました。
なるほどーこれは説得力がある。たしかに2に至るのは自然ですね。そしてそこからの発想も納得できる。それだー! そうすると私が書いた記事は何だったのか……いや、まあ新しい回文できたからいいです。
削除でもその手順、単純そうに見えるが一直線ではない、というところが面白いですね。3から4のステップとか一般化しにくい。
そして独自に思いついていたO太郎さんさすがです。
やっぱり回文作成プロセス談義楽しいなあ。いろんな人と語ってみたいです。
蛇足ですが人によって⑧以降が存在するとおもいます。
削除いわばトライ弟妹や選択されない弟妹ですかね。
⑧トライ4:「お金」よりも「もう一つ+お」で「大金」の方がソれっぽいかな?
あ、でも「おおかね」のつもりが連濁で「おおがね」になっちゃうし、
というか普通「たいきん」と読まれちゃうからダメか。
⑧蛇足1:語調強化「ね、世の中ね、顔かお金かなのよね…」
…付けない方が良いよな…。ボツ。
⑧蛇足2:さらに並列になる言葉が欲しい。「おっぱ○」とか。
「世の中ね顔か腿かお金かなのよ」
「世の中ね顔かね胸か金かなのよ」
「世の中ね顔か股(もも)かお金かなのよ」
亜流弟妹品であり、選ばれないであろう。
選択のステップロセスにも何やら怪しい技術や肝が有りそうなので
ソコも掘り下げられると、Xへの道へのプロセスになるのかも。
「桃(もも)」だと上も下もカバー出来るというか
削除ピンクとして全体をカバー出来るし、
不老不死の要素も加えられるかも知れないから
「世の中ね顔か桃か金かなのよ」
が良い、とは いかにも僕らしいので 却下(隔離)。
(二つも)「お欠(ケツ)」になっている…。大変失礼しました。
削除どこで完成と見なすかっていうのも人それぞれでなかなか興味深いものがありますね。本題とはあんまり関係ない気もするが。
削除私のテリトリーとして回文狂歌にしてみた。(あんまりうなくないけど)
削除世の中ね カオスとオカン 泥酔す 遺伝か落とすお金かなのよ
(よのなかね かおすとおかん でいすいす いでんかおとす おかねかなのよ)
なんだかやる気喪失していてお返事遅くなりましたが、狂歌化ありがとうございます。
削除やる気があった頃にこれを読んで、「落とすお金」はなかなかいいぞと思い、何か自分でも作ってみたはずなんだけど、メモを紛失してわからなくなってしまった、うーむ残念。